キリンリキのしっぽのアレが考える

蟲師 日蝕む翳

【タイトル】蟲師 日蝕む翳 (ひはむかげ)

 

 ※アニメ「日蝕む翳」公式サイト

 

 

※ネタバレあり注意です。

 

【感想】

蟲師の連載終了から5年。漆原友紀先生が久しびりに描く蟲師のお話です。 

 

日食(以下日蝕)をテーマとし、見える人間と見えない存在とに分かれる不思議な「蟲」と、蟲によって影響を与えられた動植物(もちろん人間も)が、主人公であるギンコを通じて大切な何かに気付いたり学んでいく。どこか切なく優しい日の光が照らされるような物語でした。

 

 

日蝕み」(ひはみ)という蟲が原因で太陽が隠されてしまい、動植物にとっては死活問題なので、蟲師のギンコが日蝕みの影響が出やすい土地を訪れる。

 

日蝕み という蟲は、他の蟲たちを寄せ集めて日の光を隠すように増殖します。普段は地底に隠れている存在ですが、日蝕の時にだけ〝核〟と〝根〟に分かれる。そして〝核〟の部分は上空で日の光を隠す。

日蝕みを消すためには、近辺に存在する〝根〟を探し出し、日の光に晒す必要があります。

 

村人とギンコたちは隈なく〝根〟を探しますが見つかりません。成果が得られず、日も長時間出ていないので、村人たちは次第に暗く気が滅入ってしまいます。

 

そんな折、ギンコは白い髪と肌、色素の薄い目をした少女と出会います。ヒヨリという名の少女は、村中の人間が困り果てている中で「これで私も外にでれるわ」と大喜びです。そんなヒヨリの双子であり、ヒヨリと比較して普通の人間に見えるヒナタは、外に出ようとするヒヨリを心配そう…。

 

どうやら周囲の人間に比べ見た目が異質のヒヨリは、太陽の光を浴びると体に黒い斑点のような痣が出てしまうようです。

同じ双子でも日の光が平気なヒナタと比較して、外で遊びたくても遊ぶことができないヒヨリは辛い。お友達に誘われてもヒヨリの心情を考えて断るヒナタに「私と変わってよ!」と感情的な言葉を投げかけてしまいます。

 

父親によると、ヒヨリとヒナタを身ごもっていた母親が、村を騒がせている日蝕と同じような月蝕を見たと言います。

2人の生んだ時には、ヒヨリだけが白い髪と肌、色素の薄い眼をしていました。

 

原因は日蝕みの亜種である〝月蝕み〟という蟲。

身重の体に偽の月蝕光を浴びると、生まれてくる子は色素を失い、日の光を浴びると体に痣がでてしまう。

ヒナタが影響を受けなかったのは、胎内でヒヨリがヒナタの陰になっていてくれたから。

 

ヒナタは影になってくれたヒヨリに感謝しますが、ヒヨリは自分だけが影響を受けてしまったことが面白くありません。

ヒヨリは現在の状況が非常に楽しく、外へも気軽に出て美しい鳥や花を間近で見ることができるのです。この異質な状況のほうが、ヒヨリにとっては居心地が良いんですね。

 

ヒヨリが外ではしゃいでいると、不思議な光を放つ花畑を見つけます。

どうやらこの場所こそ、日蝕みの〝根〟が地底にある場所のようですが、花があった場所をギンコに教えたくない様子です。

無理もありませんよね。痣を気にせず楽しく遊べるのに、その機会を捨てることは躊躇してしまいます。

しかし、ギンコは「お前は、あの日蝕みと同じだ」と優しい口調ですが、非常に説得力のある言葉をヒヨリに投げかけるのです。

 

ヒヨリ自身も日の光で育ったものを食べ、どんなに憎くても日の光に生かされている。

太陽を隠す〝日蝕み〟だって、光に弱い根を守るために〝核〟の部分は日光を常に浴びているのです。 

ギンコは、ある人種には便利となる蟲でも、いづれは蟲に人間の心が浸食されることを知っている。だから、ヒヨリにはそんな人間になってほしくない。闇の中に閉ざされてほしくないという強い願いを感じました。

 

一方その頃、ヒヨリの気持ちを汲み取ることができなかったと後悔するヒナタは、「私なんか いなければよかったのに…」と落ち込んで森の中に消えてしまいます。

心配したヒナタは、ここでようやくいつも傍にいてくれたヒナタの大切さに気付きます。心身ともに暗闇に呑まれそうになっていたヒヨリにとって、存在することが当たり前だと思っていたヒナタの存在がお天道様だったわけですね。この双子の美しい関係性にウルッと来てしまい…、これぞ、制作スタッフや日本のみならず、世界中から蟲師が愛される理由だと思いました。

 

ヒナタが発見された場所は、あの不思議な光を放つ花畑であった。

ヒナタは蟲の気を浴び過ぎて人間と蟲の中間の存在になっており、普通の人間には見えない存在になっていました。

 

元に戻す方法は、ヒヨリがヒナタの傍にいて根気よく話しかけること。そうすることで日蝕みを絶つことができるのです。

ここで、最初に描かれていたヒヨリとヒナタの関係性が逆転し、今度はヒヨリがヒナタを照らす役割となるんですね…。

 

その後、花畑の下に埋まっていた〝根〟を掘り起し、無事に日の光で消すことに成功。

また嬉しいことに、生まれつき日の光に苦しめられてきたヒヨリも、日の光を浴びて平気な状態になりました。少しずつ人間の気を取り戻しつつあるヒナタを傍に、「今度は私がヒナタを照らす番だ」と、失いかけていたヒヨリの生きすじさえ救われた素晴らしい物語でした!

 

 

この作品は

日蝕・月蝕、太陽と月、双子という存在が上手く噛み合い、失うことが想像できない対象を失ったとき、本当の大切さに気付かされる…。そして、蟲師の永遠のテーマだと個人的には思っている「自然環境に蟲や動植物が生かされている」ことを改めて感じさせられました。

 

限りなくハッピーエンドであったことも素晴らしく、ギンコが発する言葉の一つひとつが、怖れや怒りで自我を失いかける人間たちに対する〝救い〟になっていると思います

淡幽さんや化野先生といった、蟲師ファンがテンションが上がるキャラクターも登場したので嬉しかったです。

 

アニメでも、過去に登場した人物たちの姿が少しだけ映されるので、本作は蟲師の集大成な作品なのかもしれませんね。

しかし私は蟲師の続きをまだ読みたいですし、いつの日か本作のような感じで短編を発表してほしいですね。