キリンリキのしっぽのアレが考える

打撃の神髄 榎本喜八伝 (著・松井浩)

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引用 打撃の神髄 榎本喜八伝 松井浩 株式会社講談社 第6刷 

(株)ベースボール・マガジン社 本著最初に掲載されている写真

【タイトル】打撃の神髄 榎本喜八

【著者】  松井浩

【帯文】  戦争のさなか、少年は野球に出会った! 「神の域に行った」伝説の打者の真実

 

 

【関連ワード】

プロ野球 合気道 純粋すぎた 神の域

 

 

【感想】

プロ野球にあまり詳しくない私でも、今回感想を述べる榎本喜八さんについては非常に興味深く、あの神様・仏様・稲尾様でお馴染みの鉄腕稲尾和久さんが榎本選手のために一試合5球以内と想定してフォークボールを投げなければ抑えることが難しかった逸話。ボヤキで有名な名将野村克也さんが対戦したなかで最も恐ろしいと語った選手も榎本さん。

イチロー選手より早く1,000安打を達成し、卓越したバッティング能力と野球に対する尋常ないほどの真剣さ、そして榎本喜八さんは奇人変人と呼ばれており、ストレスが溜まると袋にカエルを詰めてエアガンで打ったり(これは絶対に褒められる行動ではありません)や、不満が募ると猟銃を持って家に立て籠るなど、現役晩年は奇行が目立ち、チームメイトとも孤立してしまう。

 

野球選手としては、毎日オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)にて鏡の前でバットを構えたまま数時間経つと「良い練習が出来た」と一言。またある時は試合前にベンチで座禅を組んだまま動かず皆に心配されるなど、とんでもない嘘のようなエピソードが満載でした。

高卒ルーキーとしていきなりスタメン、現代でも通用するバッティングホーム。合気道をバッティングに取り入れることで、ピッチャーが投げる前から打つ感覚「神の域」に達したと言われており、創作みたいな逸話が多いけどこの人ならあり得る話ではないかと…。

 

幼少期は大変な貧乏で、雨漏りのする家で傘をさしたまま過ごすこともあったそうです。近所のお姉さんに野球観戦に連れて行ってもらったことや、通りすがりのお兄さんに野球道具を譲ってもらうなど、ほっこりしたエピソードも面白く、野球選手になっておばあちゃんに良い暮らしをしてほしい気持ちが強い子どもでした。

 

プロ野球選手になりたくて「毎朝家を出る前に500バットスイングをしろ」という先輩との約束を守って本当に毎朝スイングしたり、先輩たちとキャバレーに遊びに行っても「すみません、こんな不潔なところにはいられません」と直ぐに帰ってしまったそうな。

 

プロになってもおばあちゃんに仕送りをしてバットを買うお金もなく、誰よりも野球道具を大切にしたエピソードでは、バットが折れないように芯で打つようにしていたエピソードもある。数少ない娯楽は喫茶店で飲むコーヒーと映画で、ジョン・ウェインポール・ニューマン主演の暴力脱獄を見て、俳優たちの動きが野球に使えるのではないかと立ち振る舞いをマネしていたそうです。

 

私はこの喫茶店や映画のくだりで一気に榎本喜八氏に惹かれました。プロ野球選手だけではないけど「野球だけが趣味」と言う選手にはあまり魅力は感じないのです。

別の野球選手ですが落合博満氏も映画が好きで、高校生の時に理不尽な部活に嫌気がさして映画ばかり観ていたらしい。なんだか先輩に苛められて心に傷を負った少年が「マイ・フェア・レディ」が好きだったエピソードが涙腺にきます。

そのような感じで榎本さんの奇行と呼ばれた行動はもちろん常軌を逸していることは間違いありませんし褒められることでは決してない。しかし、おばあちゃんのこと、映画、当時の子どもたちが榎本選手の周りによく集まっていたなど、微笑ましいエピソードも多かったのです。

 

私の推測ですが、榎本喜八という野球選手はどこまでも純粋で真面目、野球が大好きだったのではないでしょうか。

仲が良かった先輩たちがチームを離れて孤立したり、成績が下がると給料も下がることを異常に恐れていたこと、素晴らしい成績を残したにも関わらず、引退後は野球界と一切関わりを持とうとしなかったこと。しかし、いつでもコーチの誘いを受けられるようフルマラソンのような厳しい練習を毎日続けていた事実。

 

どこまでも純粋で真面目だったからストレスを発散させることが出来ず奇行に走ってしまったのかなと…。神の域まで到達できたのも、野球を純粋に一生懸命 努力した結果だからではないでしょうか。

 

だから私は本著を読んで、この人は裏表の表しかなかった人だと思います。

残念なことに2012年にお亡くなりになっていること、現役当時の榎本さんを映した映像と写真が非常に少ないことからも、本著は貴重な資料として読み応えがありました。