【タイトル】フィラメント
【作者】漆原友紀
【関連ワード】
蟲師と虫師 自然 過去作品集
【感想】
漆原友紀先生の代表作「蟲師」は大好きな作品で、今でも原作を何度も読み返し、アニメを夜な夜な繰り返し観ています。
フィラメントは漆原先生が過去に発表した短編を綴った作品集。
2000年代の蟲師の絵と90年代に発表した作品とで絵が大分異なります。一見「蟲師」とはテーマがかけ離れているように見える短編集ですが、人間は自然や動植物に生かされていることを感じさせられる作風は昔から変わらず素晴らしいことが分かりました
引用 フィラメント 漆原友紀 株式会社 講談社 第6刷 P21
「岬でバスを降りたひと」より
「岬でバスを降りたひと」は、自さつをする者が頻繁に出る岬で小さな商店を営む人間が不思議な体験をするお話。
主人公の実津子は幼い頃からこれから飛び降りる人間の「死」を感じ取って生きてきました。だから岬を巡回するバスから降りた人が「そうでない人」と「そういう人」がいて、崖と商店をぐるぐる回って次のバスで帰る人もいれば崖下で発見される人もいる。
漆原先生の作品は「目に見えない存在」に対する描き方が本当にグッと来てしまう。
蟲師でも見える者と見えない者が存在する蟲に対して、蟲師のギンコが恐れや怒りに目を眩まされる、そんな生きる目的を見失った人間に掛ける言葉。その一つひとつが人物たちの救いになっているし、蟲と動植物(人間を含む)が均衡を保ちながら共存するテーマもある
「岬でバスを降りたひと」も、生き霊となった人間が実津子の商店に来ますが、生き霊が見える子供の助けを借りて一人の人間として普通に接っしようとする。
なんだかそんな優しさを感じると、まだまだ自分は頑張れるような気になれる
引用 フィラメント 漆原友紀 株式会社 講談社 第6刷 P51
「迷宮猫」より
作品集の中には軍艦島をモチーフにした話もあります。
漆原先生は軍艦島や棚田、昔話なんかにインスピレーションを受けると聞いたことがあり、作品を呼んでも影響を大いに感じることができますね。
「虫師 屋根の上の宴」 より
フィラメントは蟲師の原型となった「虫師」も掲載されています。
漆原先生は蟲師とは別の世界なので、彼らには住み分けしてもらうとのこと。
蟲師は日本をイメージさせられる世界観で、鎖国以前の閉鎖的でどこかファンタジーと懐かしさを感じます。一方で虫師は電柱などが描かれており現代的。中には学界の地位や名誉といった人間関係に疲れて虫師になった人間もいて蟲師と毛色が異なることが分かります。
しかし、作中で登場する虫や風景、人物と小道具からも蟲師に通じるものを体験できてニヤニヤしてしまった…。
両作品は土台が同じと言いますが…。蟲師の面白さや感動と似たものを虫師にも感じましたし、読者に訴えてくる何かも異なるようで似ていると思います。
「蟲師」や「水域」に通じる雰囲気を掲載作品からも感じ取れて、不思議と懐かしい気持ちになれた作品集でした。